はじめに
フルスケールは、去る11月、自社サイトの全面リニューアルを実施。4年ぶりのリニュアールとなりました。
本記事では、リニューアルを検討されている企業の担当者様・経営様に向け「何のためにサイトリニューアルを行うのか?」という根本の部分について、当リニューアルを例に解説。リニューアルを成功に導くため「そもそも」考えておきたい「目的の整理と課題の抽出」について、お伝えします。
※今般のリニューアルにおけるCI・VI策定プロセスについては、弊社デザインディレクター・小林の記事「ブランドリニューアル徹底解説【CI・VI編】」をご高覧ください。
サイトをリニューアルする「理由」と「目的」
企業が自社のWebサイト・ホームページをリニューアルする経緯は、さまざま。
- サイトデザイン、インターフェース、コンテンツが時代に合ってない。
- 企業イメージ、ブランドイメージを刷新したい。
- お問い合わせをもっと増やして、売上をアップさせたい。
- ビジネスターゲットを変えたい。
- 人材採用を強化したい。
- 運用が煩雑になってきたので整理したい。
- 外部にお願いしている運用を社内で完結させたい。
- 空(経営陣)から指令がふわり舞い降りた。
貴社の場合、どんな理由で、サイトリニューアルを検討しはじめましたか?
過去にリニューアルを担当された方は、当時の「理由」を。
まさに現在担当している方は、今の「理由」を思い浮かべてみてください。
フルスケールの場合
当社には長年、
- 既存クライアントやご紹介から発生する案件比率と依存度が高く、完全新規のご相談が少ない。
- 制作リソースが不足気味で、せっかくの引き合いも断念せざるを得ないケースが頻発している。
という経営課題がありました。
簡単にまとめると、
- 新規見込み顧客の獲得施策が打てていない。
- 採用プロモーションが機能していない。
ということになります。
恥ずかしながら、企業のWebサイト制作やデジタルマーケティング支援を生業にしている企業としては、あるまじき経営課題を抱えていたのです。
この経営課題を早急に解決するべく「営業的機能、リクルート的機能を兼ね合わせる自社サイトへのリニューアル」に着手することにした、これが当社が自社サイトをリニューアルする「理由」であり「目的」です。
会社の顔でもあるWebサイト。経営課題とWebサイト上の課題が直接リンクしている企業も多くなっています。
皆さんがサイトリニューアルする(した)「理由」も経営課題の解決に繋がるものでしたか?
ここがポイント!
「何はさておいても、準備こそが成功の鍵だ。」−アレキサンダー・グラハム・ベル−
「社長(上)が変えろと言っているから…」
「何となく飽きてしまったから…」
といった経緯で、プロジェクトが立ち上がった場合は、注意が必要です。
手段であるはずのサイトリニューアル自体が目的化してしまう恐れがあります。
複数の関係者で「目的」を整理し「本当にリニューアルする必要があるのか?」の議論を重ねた上で判断すべきです。
フルリニューアルではなく、ユーザービリティ(使い勝手)の改善や、コンテンツの見直しや追加で、課題が解決できるケースも少なくありません。
目的を明確にすることで、Webサイトではなく、サービスや商品に根本的な課題・欠点が見つかることも。
急がば回れ。それなりの投資が必要となるサイトのリニューアルです。しっかりと下ごしらえをして、プロジェクトに臨みましょう。
「現状分析」と「課題抽出」
リニューアルを行う目的がまとまってきたら、現状分析から、より具体的なデジタル上の課題の抽出を行います。
「分析」と聞くと「サイト分析ツールをこねくり回すのか…」と、毛嫌いされる方も少なくないと思います。
ですが、事前に「目的」が固まっているのであれば「押さえるべき範囲(スコープ)」も、狭まっているはず。
また、アクセス分析を行い、サイトを継続的に運用・改善してきたサイトでない限り、過去に捉われる必要はありません。
データがある程度簡便に取得できる分、自身で深堀される方もなかにはいらっしゃいますが、分析ツールがはじき出すデータはあくまで、リニューアル前のデータ(姿)。
頭をまっさらにリセットして、必要なデータだけを読み解くことに集中し、課題の抽出と具体化に努めることを優先しましょう。
フルスケールの場合
前述のように自社のサイト改善・運用を定常的に行っていなかったため、今回のリニューアルにおいては、サイト分析にはあまり重きを置かず、サイト構成から具体的な課題を抽出することに。
※実際には、Web上の分析や課題抽出の前に、クロスSWOT分析などのフレームワークで、経営全体の分析と課題を抽出していますが、また別の機会に紹介できればと思います。
リニューアル以前の自社サイトは、下記のようにシンプルかつ簡素なサイト構成です。
TOPページ:「お知らせ」「制作実績一覧」
採用情報 :「採用メッセージ」「募集職種の紹介」
その他 :「会社概要」「アクセス」「お問い合わせ」
課題と思われるポイント①「検討材料の欠如」
- 「サービス」「費用」など、発注検討者が必要とするであろうコンテンツがない。
- 「会社紹介」「スタッフ紹介」「ブログ」など、入社希望者が必要とするであろうコンテンツがない。
課題と思われるポイント②「接触機会の不足」
流入元を見ると、GoogleやYahoo!からの自然検索やデザインまとめサイトなどリファラルからの流入が7割ほどと高い比率。
それもそのはず、Facebookページでの実績・メディア掲載の投稿のみで、オウンドメディアとしての自発的な情報発信がほぼできていません。
※リニューアル検討時点のTwitter最終更新は、なんと2012年(!)。
デザインに興味を持って、自発的に当社を検索した・リファラルから訪問してくれたユーザー以外との接触機会が乏しく、コミュニケーション不足が改めて浮き彫りになりました。
課題と思われるポイントの整理
TOPに全件掲載していた「制作実績」については、網羅性と詳細ページへの導線が確保されていたため、一定の有効性があったと考えられますが、ユーザーが検討する際に必要な情報が存在せず、情報も発信できていない。まさに「丸腰」の状態だったのです。
さらに、①、②で浮かび上がった課題を見込み顧客(発注検討者・入社検討者)ごとの視点で表現してみます。
<Web担当者・発注検討者視点>
どのような考えを持った企業なのだろうか…。
どのようなこと(まで)がお願いできるのか…。
どのくらい費用がかかるのだろう…。
<入社検討者視点>
どんな人たちが働いているのかな…。
働く環境をもっと見てみたいけど…。
…やはり、何らかの課題解決しにきたユーザーが期待していた情報がないために、問い合わせや応募に繋げられなかったと考えられます。
課題の裏付け
実際にその仮説を立証するために、社外の方々複数名に、Webサイトを通した当社の印象・イメージについてのヒアリングを行ったところ、
「こちらのあまり要望を聞いてくれなさそう」(30代・住宅メーカー・女性)
「運用などの細かいことまではして来れなさそう」(40代・医療関係・女性)
「毎日徹夜してそう」(20代・Webデザイナー・男性)
「頑固一徹な職人気質の人が働いていそう」(10代・専門学校生・男性)
という印象・イメージを与えていることがわかりました。
実際には、要望をお伺いした上でしっかりご提案し、日々の運用業務まで細かく丁寧に対応し、そこそこの時間帯で切り上げて休日出勤もなく、それ相応に素直なメンバーが働いておりますが(笑)…、たった数人へのインタビューでも課題がより鮮明になり、事前に仮定していた課題を裏付けることができました。
今回のプロジェクトでは、このような定性的な課題やアクセス分析から抽出した定量的な課題を鑑み、
「制作事例」は多数あり、「デザイン力」は高く見えるが、あまりに情報が少なく、
「ミステリアスな企業」というイメージが先行し、発注検討者や入社検討者からの引き合いをとりこぼしている。
という課題を抽出するに至りました。
【ここがポイント!】
自己を責めることを知っているものは善人で、他人ばかりを責めるものが悪人だ。−武者小路実篤 −
サイトの課題を見つけるには、ユーザー視点で自社をしっかりと見つめられるかどうかがポイントです。
「前任の担当者が上司で、尖った意見がしづらい…」
「社長が気に入っているサイトだから、否定的なコメントはできない…」
と、躊躇して、課題を解決させられないサイトにリニューアルしてしまうと、結果的にビジネス機会の損失の要因にもなります。
「自分の分析では、自信がないし、根拠もない…」という方は、当社のような外部の専門家に相談するのも得策ですが、自身がファシリテーターとして動き、社内の関係者(老若男女問わず)や、ターゲットとしているユーザーからの客観的意見も汲み入れてみてはいかがでしょうか。現在のサイト、会社へのリアルな評価を把握することは、課題解決の糸口となるはずです。
まとめ
Webサイトリニューアルのプロジェクトを進めるにあたり、デザイン(見た目)、情報、ユーザビリティなど、デザインやコンテンツから発想・検討していくことも重要です。ただ、本当に大切なのは「課題を洗い出し、目的を定義し、成し遂げたい目標を設定する」ということ。
根気のいる作業になりますが、視点を変えて「自社をイノベーションするまたとない機会」と捉えれば、自然と視座が上がり、ポジティブに取り組めるはずです。
プロジェクトメンバーが「そもそも、なぜ当社はリニューアルを行うのか?」を問い続け、社内外のステークホルダーを巻き込みながら、プロジェクトをマネジメントすることが、成功へのはじめの一歩なのです。
フルスケールは、そのはじめの一歩からご支援可能です。ぜひ、お気軽にご相談ください。
次回は「目的の整理」と「課題抽出」の次のステップとなる「ペルソナ」や「カスタマージャーニーマップ」の策定について、解説できればと思います。